コロナウイルス感染症が原因のパンデミックで社会環境の変化、世界的にDXを推進していることから、日本でもSaaS業界の知名度が上がってきました。
これまでは、まだ成長段階の業界と捉えられてきましたが、近年での環境変化が追い風になっており、特にBtoB向けのSaaSが成長しています。
成長業界であるSaaS業界に新規参入や転職を考える方もいるかと思いますが、SaaSは調べるほど奥が深く、海外発祥のため、横文字やカタカナが多く、理解するのが難しいと感じる方が多いでしょう。
本記事では、SaaS入門編の基礎知識として、ホリゾンタルSaaSとバーティカルSaaSという2つのSaaSビジネスモデルの違いを解説します。
ホリゾンタルSaaSとは?
ホリゾンタルとは、「水平」という意味です。
しかし、ここでは、企業や部門などの垣根を超えて水平に利用できるという解釈になります。
つまり、ホリゾンタルSaaSとは、業界や業種に関係なく使用できるSaaSのことで、業務課題を解決するために利用されます。
営業やマーケティング、経理や人事といった特定の部署、職種の方が利用することが多いです。
ここ数年で、SaaS企業が台頭し上場企業も増えてきましたが、その多くがホリゾンタルSaaSです。
メリット
新規の顧客が見つけやすい/マーケットが大きい
業界や業種を特定しないホリゾンタルSaaSは、営業先が豊富で新規契約を見込める顧客が多いことがメリットです。
すでにSaaSを導入済みの企業でも、別用途のSaaSを提案すれば導入してもらえる可能性があります。
例えば、勤怠管理のSaaSを導入済みの顧客が、グループウェアのSaaSを新たに導入する場合もあります。
まだ自社製品を導入していない企業から、すでに導入済みの企業まで、新規開拓先の母数(マーケット)は非常に多いと言えるでしょう。
知名度が上がりやすい
ホリゾンタルSaaSは、業界や業種に関わらず利用されるため、多数の企業で導入されることで知名度が上がりやすいです。
特に大手企業への導入が進み、知名度が上がることで、営業をかけなくても、サービスを導入したいと考えている他業界の企業からの問い合わせがきたり、さまざまな業界へ一気に展開がしやすくなります。
デメリット
競合との競争が激しい
メリットの面で、営業先の母数が多いと話しましたが、それは競合企業にも言えることですので、その分競争が激しくなります。
ホリゾンタルSaaSは、バーティカルSaaSと比べて、市場の成熟度が高いと言われており、既存プレイヤーとのバッティング、新規参入する企業が多く競争が激しい傾向にあります。
ホリゾンタルSaaSの例
ホリゾンタルSaaSを提供する企業を紹介します。
サイボウズ株式会社
- 業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」
- 中小企業向けグループウェア「サイボウズOffice」
- 中堅・大規模組織向けグループウェア「Garoon」
- メール一元管理システム「メールワイズ」
グループウェアの開発・保守・販売を手掛け、業界トップシェアを誇るSaaS企業です。
これまでの職場で、サイボウズのグループウェアを利用したという方も多いのではないでしょうか?
業務改善プラットフォームの「kintone」は、開発の知識がなくても自社の業務に合わせたシステムを簡単に構築できるサービスです。
例えば、顧客管理、交通費申請、お弁当注文、セミナー管理など幅広い業務に対応可能です。
また、「Garoon」は、中堅・大規模組織向けグループウェアで国内5,400社、利用者数260万人を超えると言われています。
株式会社マネーフォワード
- 個人向けの資産管理・家計簿アプリ「マネーフォワード ME」
- 法人向けサービスの「マネーフォワード Business」
国内最大級の個人向け自動家計簿や資産管理サービスを提供している他、企業のバックオフィス効率化を推進して、法人向けのサービスも提供しています。
業務フローのデジタル化を手掛けるベンチャー企業Layerxとも提携し、企業・行政機関のDXを推進しています。
「マネーフォワード ME」は、誰でも簡単に利用できるお金の見える化サービスです。
銀行・クレジットカード・証券会社・FX・年金・ポイントなどを1つのアプリで自動で一元管理することが可能です。
現在、2,000以上の金融サービスと連携しており、手間をかけずに、最新の資産状況を把握できます。
基本的には、無料で利用でき、課金することで1年以上前のデータを閲覧、金融機関11件以上と連携することができます。
フリーミアムでサブスクリプションとして有料プランに流す仕組みです。
「マネーフォワードME」の利用者数は1,200万人、そのうち30万人以上が課金ユーザーとなっています。
Chatwork株式会社
- オンラインアシスタントサービス「Chatworkアシスタント」
- 助成金申請サポートサービス「Chatwork助成金診断」
- ファクタリングサービス「Chatwork早期入金」
Chatwork事業とセキュリティ事業の2軸でサービスを展開しています。
特にChatwork事業は細かくサービスが枝分かれしています。
メインのChatworkは、ビジネスチャットツールとして、SlackやTeamsと並び「3大ビジネスチャット」と言われ、その中で唯一の国産SaaSで、最も歴史が古いです。
メール・電話・会議に代わるコミュニケーションツールとして扱われており、Zoomのようなビデオ会議でも利用可能です。
ToDoリストなどのプロジェクト管理にも利用でき、2020年時点で約27万以上の企業が導入しています。
バーティカルSaasとは?
バーティカルというのは、直訳すると「垂直」という意味になります。
ここでの場合は、特定の業界で使えるという捉え方をします。
つまり、バーティカルSaaSとは、特定の業界に特化したSaaSのことを指します。
例えば、食品業界向け、建設業界向け、医療業界向けなど、ユーザーとなる業界を限定し、機能を深堀りしたサービスです。
このような特定の業界に特化したSaaSは米国では「インダストリー・クラウド」と呼ばれています。
開発するには、特定分野に対する深い知識や経験を求められるため、新規参入の企業では、開発が難しく、老舗企業が開発する場合が多いです。
SaaSの市場規模の拡大に伴いできた、従来のものとは異なるSaaSと言われています。
メリット
競合が少ない
バーティカルSaaSはホリゾンタルSaaSと比べると、市場が成熟しておらず、まだ競合が少ない状態です。
業界別にターゲットを分類するとさらに競合が少なくなります。
また、隙間産業的なビジネスとなるため、参入企業は事前に十分なリサーチを重ねるなど慎重に動くことが予想されます。
その結果、参入数や参入頻度が高くなりにくいでしょう。
シェアを独占しやすい
バーティカルSaaSは、競合が少ないのでその分、特定の領域におけるシェアを狙えるメリットがあります。
また、限定された市場を対象としているため、他社が真似しづらいというのも特徴です。
顧客のロイヤル化がしやすい
市場を独占しやすく、競争になりにくいバーティカルSaaSは、顧客の囲い込みがしやすいです。
競合が少ないということは、顧客から見れば、選択肢が限られていると捉えられます。
万が一、製品やサービスに不満を持っていたとしても、簡単に解約したり、他社へ乗り換えたりということが起きにくいです。
デメリット
限られた領域でしか知名度が上がらない
バーティカルSaaSは専門の領域に特化したSaaSなので、高いシェア率を獲得しても、知名度はその専門領域・対象業界でしか上がりません。
その業界では、有名でも別業界でのビジネスパーソンには知られないことが多いです。
規模を拡大するのが難しい
たとえ、高いシェアをとったとしても、マーケットが小さいため、導入数自体が少ないというデメリットがあります。
導入数に限界があったり、対象が限定的になってしまうと、必然的に会社の規模拡大には限界があります。
バーティカルSaaSの例
バーティカルSaaSを提供する企業を紹介します。
株式会社スマレジ
- クラウドPOSレジ
株式会社スマレジが提供する「クラウドPOSレジ」とは、インターネットであれば、タブレットやスマートフォンを店舗のレジとして利用でき、さらに顧客管理・販売管理をすることができます。
最近でも、頻繁にアップデートをしていて、新機能が増えてきています。
96,000以上の導入実績があり、個人経営からチェーン店など、幅広い企業が導入をしています。
基本の料金形態は、フリーミアムを採用していますが、機能によっては、サブスクリプションモデルの料金設定やクレジットカード決済手数料などの収入がスマレジ社に入ります。
株式会社スマレジは、営業手法が多く、ショールームを設置しています。
またセールスパートナーとして、大塚商会やNTT東日本などと連携し、販路拡大を図っています。
サービスの側面では、小規模な店舗でも高機能を利用できるという強みがあります。
今後は、スマレジをプラットフォーム化し、外部事業者による機能開発を行うことで、小さなニーズにも即座に応える体制を確立していくようです。
株式会社エス・エム・エス(SMS)
- カイポケ
株式会社エス・エム・エスが提供するカイポケは、介護事業者の経営および業務の効率化や働き方改革をサポートするクラウドサービスになっています。
介護業務以外にも、間接業務を削減する業務支援機能、勤怠・給与・労務や会計などの経営・運営支援機能を提供しています。
無料で人材募集を行える“求人サービス”、国保連からの入金を待たずに一部資金を得ることができる“ファクタリングサービス”、タブレット端末の無料貸与などの“経営改善サービス”など魅力あるサービスが充実しており、シェアは着実に拡大しています。
他にも2019年10月時点でおよそ40ものサービス、機能を展開していて、その規模は全国約25,850事業所となります。
まずは無料で18ヶ月のトライアル期間があるのも評判です。
カイポケの登場により、介護事業者が目指す理想の介護サービスの実現が期待されています。
株式会社アンドパッド(旧株式会社オクト)
- アンドパッド(ANDPAD)
アンドパッドは、スマートフォンで施工の現場や見積・予算を一括管理できる施工現場管理サービスです。
もともと電話やFAXなどでアナログだった現場が、アンドパッドを用いた情報共有により業務の見える化が促進され、工期遅れの防止や残業時間の削減、粗利率向上が期待できます。
またアンドパッド自体が非常に使いやすく設計されており、UIUX改善、導入後のサポートや現場からの声をスピード感をもって反映する運営会社のスタンスも非常に評判です。
そのおかげもあってか、2022年にはなんと13万社を超える企業に利用されています。
建設業界、建築現場を支えるクラウド型管理サービスとして、今後のさらなる利用が期待されるでしょう。
二つのSaaSの違いは?
市場サイズの違い
ホリゾンタルSaaSは、業界・業種を問わない業界横断型のSaaSなので、すべての業界がターゲットになります。
そのため、市場サイズはバーティカルSaaSよりも大きくなります。
一方で、バーティカルSaaSは、特定の専門分野に特化した業界特化型のSaaSなので、バーティカルSaaS程の市場サイズはありません。
しかし、ターゲット業界に業界ならではの習慣や複雑な制約があり、そこにマッチできる機能・サービスを提供できれば、その業界シェアを占有し、収益を大きく上げられる可能性があります。
ユーザー数と競合の数
市場サイズに比例して、ターゲット業界のユーザー数と競合の企業数も変わってきます。
ホリゾンタルSaaSは市場サイズが大きいため、ユーザー数が多く、競合企業数も多数です。
すでに、ホリゾンタルSaaSにおいてトップの企業は、資金力を使い、M&Aでベンチャー企業やスタートアップ企業を傘下に加えて大きくなっているため、マーケットシェアを拡大させていくことは厳しいと言えます。
一方で、市場サイズが限られているバーティカルSaaSは、特定の業界に特化するゆえにユーザー数や競合企業数も限定されます。
特に日本国内においては、世界的にまだユーザーが少ないと言われていますので、早期に市場に参入できればシェアを獲得しやすいでしょう。
今後のSaaS
海外ではすでにSaaS市場が成熟しつつあり、それに合わせて業界特化型のバーティカルSaaSのシェアが伸びています。
日本のSaaSはアメリカなどの海外SaaSと比べて、5年程遅れていると言われているので、ここ数年で、日本もホリゾンタルSaaSで差別化を測ることが難しくなり、バーティカルSaaSのサービスが続々登場していく可能性があるでしょう。
実際に医療や不動産、建設の領域では、バーティカルSaaSが増え始めて、市場の盛り上がりが垣間見えます。
まとめ
ここまで、ホリゾンタルSaaS、バーティカルSaaSのそれぞれのメリット・デメリットから始まり、双方の違いや今度の日本のSaaSについて解説しました。
本記事解説した内容は以下の通りです。
- ホリゾンタルSaaSは業界・業種に関わらず使用できる汎用型のSaaSで、バーティカルSaaSは特定の業界に特化した、専用型のSaaSです。
- ホリゾンタルSaaSのメリットは、マーケットが大きく、営業先が豊富で知名度が上がりやすいことで、デメリットは、競合企業が多いことです。
- バーティカルSaaSのメリットは、競合が少なくシェアを獲得しやすく、デメリットは、規模の拡大です。
- 今後の国内SaaSはバーティカルSaaSの需要が伸びると予想されます。
弊社では、元SaaS出身のコンサルタントも数名在籍しており、未経験からのSaaS業界への転職を多数支援しています。ご興味ある方は以下よりお気軽にご相談ください。