近年、SaaSの普及が進んでいく中で、SaaS企業の特徴的な職種といえばカスタマーサクセスという声を聞くようになりました。
ここ数年、これから伸びる職種として注目されており、新型コロナウイルスの影響で、求人数が一時的に減少しましたが、また増加傾向になると言われています。
しかし、カスタマーサクセスといっても企業によっては、業務の内容や期待される役割に差があるのが現状です。
カスタマーサクセスの定義をきちんと理解している企業はまだ少ないかと思います。
SaaSを扱っている大手企業でも、試行錯誤を繰り返して組織体制や業務フロー、仕事内容を定着させようとしている最中、ポジティブにいえば、これから立ち上げフェーズ、まだ設計フェーズだというところもあります。
本記事では、カスタマーサクセスの解説から始まり、SaaSを運用している企業のカスタマーサクセスの実例を紹介します。
ぜひ、最後まで読み進めて頂ければ幸いです。
カスタマーサクセスとは?
カスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客の成功」という意味です。提供するサービスを通じて、顧客を成功に導くためのサポートと、それによって企業が得る報酬の増加(売上アップ)を目的として営業活動する職種を指します。
近年、市場の消費活動が「所有」から「利用」へと変化し、高価なモノやサービスを購入するのではなく、必要なタイミングで必要な機能だけを選択するサブスクリプションが普及しています。
ソフトウェアを購入して、PCにインストールして利用してもらう流れから、インターネットを通じてソフトウェアを提供し、これを顧客が必要な機能だけを選択した後にサブスクリプションとして、契約する流れが主流となってきました
SaaSは、顧客に継続して利用してもらうことで、利益を得る仕組みになっています。
そのため、顧客に自社サービスを継続して利用してもらうことが重要になり、顧客が自社サービスを利用した成功体験を実感させることが必要になってきました。
そこで注目されるようになったのがカスタマーサクセスです。
海外では、すでにカスタマーサクセス部門として、独立させて業務を行うのが一般的です。
カスタマーサクセスの重要性は、SaaSだけではなく、他の業界にも広がりを見せています。
現在、伸びていると言われている消費者に直接サブスクリプションサービスで販売を行うD2C業界、月々の料金が発生する金融・保険・クレジットカードやコンサルティングなどを始め、定期的に購買が起こるB2Bでの食品・飲料業界・製造業界・小売業界といった様々な業界にカスタマーサクセスの重要性が広がっています。
カスタマーサクセスの詳細についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
カスタマーサクセスの役割
カスタマーサクセスは、顧客の成功を能動的にサポートすることが主な役割になります。
具体的にどんな役割があるのか4つに分けて解説します。
顧客生涯価値(LTV)の向上
LTVとは、Life Time Value(ライフタイムバリュー)の略称です。
顧客から将来的にどのくらいの利益を得られるのかを計測する指数として扱われています。
顧客の成功に貢献し、信頼関係を築こうとするカスタマーサクセスの活動は、LTV向上につながります。
LTVに影響を与える要素は、「顧客単価」「購入頻度」「継続期間」の3つです。
この3つの数値を上げる為に、アップセルやクロスセルを意識し、顧客単価の向上を狙い、顧客との関係を維持しながら良いタイミングを見計らってアプローチすることが購入頻度を上げる為には、重要になります。
また、継続期間の向上はSaaSのようなサブスクリプションモデルのビジネスでは、最も重要と言われており、常に課題を見つけ出して、改善する姿勢と解約や乗り換えが起きやすいタイミングでキャンペーンや特典を提供するなど、顧客の動向を日頃から把握しておかなければなりません。
解約率(チャーンレート)の減少
解約率(チャーンレート)は、「顧客離脱率」や「退会率」とも呼ばれており、有料会員から無料会員への切り替えも含みます。
SaaSのようなサブスクリプションモデル型の料金形態が主なサービスで利益を上げるには、新規契約を増やすよりも、現在契約中の顧客の解約を防止することが大切です。
サービスが解約される理由は「サービス・製品に満足していない」「期待していた程効果がでなかった」等、不満に感じている点が挙げられます。
そこで、カスタマーサクセスが日頃から顧客が不満を抱かないように、フォローする必要があります。
プロダクトやサービスの改善
サービス・製品利用者と接する機会が最も多いのがカスタマーサクセスです。
時には顧客から直接、「このような仕様にして欲しい」と要望を言われることもあるでしょう。
しかし、それをそのまま自社に持ち帰って開発チームに伝えても結果的に反映されません。
なぜなら、要望の理由や背景等、より深いところまでヒアリングして、精査した上でフィードバックしなければ改善には結びつかないためです。
顧客のニーズを拾いながらそれを参考にプロダクトやサービスの改善点を導き出し、より良い製品を作り上げる為の情報として社内へフィードバックすることで、開発面にも貢献しています。
継続利用する顧客の増加
顧客の満足度を高い水準で維持して、継続利用していただければえ、より高単価なプランを契約してくれる可能性があります。
また、既存顧客が関連部署や他の企業に、口コミで自社製品を広めてくれるかもしれません。
つまり、顧客との関係を維持することで、新規顧客獲得のためのマーケティング活動をローコストで行えるのです。
カスタマーサクセスの企業事例
カスタマーサクセスの事例として下記の企業事例を紹介します。
- Adobe株式会社
- Slack Technologies Inc
- Sansan株式会社
- 株式会社ベルフェイス
- 株式会社SmartHR
Adobe株式会社
画像関連ツールやPDFを中心に、世界中にユーザーを持つ企業です。
Adobeの製品は、クリエイティブな業務を行う大企業から個人ユーザーまでを顧客としているので、膨大な対応パターンに分けられます。
そこでAdobeは、顧客の利用状況を自動的に分析する仕組みを作成しました。
契約のほとんどを占める中小企業を中心に、適切なタイミングで最適なアクションを起こすことに注力しています。
特に重要視しているのは、次の3点です。
- 人(顧客と直接コンタクトする人材/フィードバックを得る)
- プロセス(費用対効果の大きなアクションを発見/行うべきアクションを掘り下げる)
- テクノロジー(顧客とのやりとりの記録情報の活用)
すべてのアクションをハイタッチ対応(重要顧客への個別対応など)で行うわけではなく、利用ログや他の情報からユーザーの状況を把握しつつ、CRMシステムによりサポートすることをベースとしています。
Slack Technologies Inc
1日のアクティブユーザー数1,200万人以上の世界150ヵ国以上で、組織をまたいだオープンでスピーディーなコミュニケーションを可能にしているビジネスコラボレーションハブです。
日本でも、急速に利用者が増加している注目のコミュニケーションツールです。
カスタマーサクセスの実践には、「聞く力」と「理解する力」が必要不可欠だと考えており、データ分析やAI活用を通じて、顧客がどのように自社製品を活用しているのか成熟度を測るマチュアリティスコアといったものを導入しています。
また、他のアプリケーションとの連携状況やメッセージの送信状況などについて、グローバルレベルと地域レベルでスコアを収集し、比較も行っています。
地域を問わず、顧客が必要としている価値を提供できているのかを測定する評価軸が下記の3つです。
・顧客がどれだけログインしているかを測る「導入(Adoption)」
・どれだけの業務を自動化できているかを測る「成熟度(Maturity)」
・顧客にどれだけ気に入って貰えたかを測る「感情(Sentiment)」
また、パワーユーザーや自社製品に熱い気持ちを持っているユーザー達を集めた「チャンピオンズネットワーク」を運営しており、成功事例を共有する為のフォーラムを開催することで、先導役のリーダーを作り出し、その方達を中心に自社製品を広める施策を行っています。
Sansan株式会社
「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と、個人向け名刺アプリ「Eight」を展開する企業です。
2007年の創業当初より、当時日本ではまだ珍しかったサブスクリプション型の事業をスタートさせ、2012年に国内企業で初めてカスタマーサクセス部門を創設しました。
日本企業の中で、トップクラスの規模と実績を誇るSansanのカスタマーサクセスは、今でも多くの企業から参考にされています。
現在のカスタマーサクセス部門は、同社のプロフィット部門として、40名以上のメンバーが活躍し、約6,000件のSansan導入企業の成功を支えています。
Sansanのカスタマーサクセスは「まずは使ってもらうことが大事」という想いから、創設当初は、オンボーディング支援が重視されました。
業績向上と共にカスタマー数が急増した結果、事業の成長フェーズが「使ってもらう」オンボーディング率アップから「価値を出してもらう」アダプション率アップによるネット収益リテンションアップへと軸足を移す時期だと判断しました。
そうした中で、データからカスタマー1人1人を知り尽くし、予測的な対応をとるカスタマーサクセスへと進化させることを目的にGainsight※という世界標準のカスタマーサクセスプラットフォームの導入を決めたのです。
Gainsight導入と同時にカスタマーサクセス組織の見直しも行った結果、以前ではフォローしきれなかった面まで手が届くようになり、顧客に良いタイミングで最適な提案をすることで、顧客価値が上がり、売上アップにも繋がりました。
※Gainsight:カスタマーサクセスのグローバルカンパニーで2011年創業のソフトウェア企業です。
株式会社ベルフェイス
「勘と根性の営業をテクノロジーで開放し企業に新たなビジネス機会をもたらす」をミッションに掲げ、国内No.1のオンライン営業システムを提供してる企業です。
創業1年目の頃は、「良いプロダクトを作って提供すれば売れるし、使われていく」という考えで事業を行ったところ、顧客の多くから解約されてしまいました。
その経験からカスタマーサクセスの大切さに気づき、現在ではHPで「日本一のカスタマーサクセスを目指しています!」と記載する程、力を入れています。
実際に顧客との定例ミーティングやアップルセル商談をオンラインで1日10回程実施しているようです。
始めは、1to1のハイタッチのカスタマーサクセスがメインで、その理由もハイタッチ以外の支援がよく分かっていなかったというもので、メルマガやステップメール送ってみたり、イベントを開催したりなど色々と模索するところからのスタートでした。
現在では、「オンボーディングはカスタマーサクセスにおいて重要」と考え、直近の改善施策として注力しているのが、セールスからカスタマーサクセスへの引き継ぎの情報をもっと適切に行っていくというものです。
もう1つ大事だと考えていることは、セールスとカスタマーサクセスで成功しやすい顧客が誰かという共通言語を作ることです。
共通言語があることで、「この情報だけでもいいから絶対に渡して欲しい」という話ができます。
現在はヘルススコアの再定義とカスタマージャーニーの作り直しを図っており、今後の更なる発展が期待できます。
株式会社SmartHR
クラウド型の人事労務ソフト「SmartrHR」の開発・運用を手掛けている企業です。
労務手続きの書類の自動作成や役所への申請をオンライン上で行えるこのサービスは、2018年時点で導入企業数15,000社、2020年秋には30000社以上をこえ、ものすごいスピードで導入企業数を増やしています。
しかも、継続利用率が99%を超えており、カスタマーサクセスチームの優秀さが伺えます。
導入企業数はどんどん増えていきますが、それを理由に人員を増やすのは、組織としてスケールしないと考え、顧客の満足度を維持したまま業務を効率化し、メンバー1人当たりの担当数を増やす方向性で進みました。
そこで課題として浮き彫りになったのが
- 業務プロセスが体系化されていない
- メンバーごとに属人化している
- いろんなサービスを同時併用していてデータが一元管理できていない
という問題点です。
当時、これらの課題を解決するために、アメリカ発のカスタマーサクセスプラットフォーム「Natero」を導入された、とのことです。
「Natero」には、顧客企業の利用状況が分かるダッシュボード機能があり、顧客ごとに次のアクションを提案してくれます。
これにより、サポートが後手にならないよう見落としを防げます。
また、部署をまたいだデータの一元管理が可能になり、セールスとカスタマーサクセスとの引き継ぎスムーズになりました。
導入から4ヵ月程でメンバー1人当たりが同時並行で対応できる顧客数が、なんと5倍以上に増えたとのことです。
自分たちの課題を浮き彫りにし、それを解決できるツールを探しだせたことでチームとしてさらなる成長を遂げたのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ここまで、カスタマーサクセスという職種の解説から始まり、その役割、最後には、現在活躍している企業のカスタマーサクセスの事例を挙げました。
カスタマーサクセスは、SaaSには欠かせない職種であり、その役割は、顧客を成功させる為にフォローすることです。
SaaSの普及に伴い、今後もますます注目される職種ですので、ぜひチェックしてみてください。
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